2つの仕事で、2つの地域課題に向き合う働き方
福知山市では、脱炭素と地域課題の解決を同時に進める新たな取り組みとして、「地域課題解決型複業モデル」を進めています。
地域新電力会社などで働きながら、地域スポーツの指導や運営にも携わる。ひとつの地域の中で複数の仕事を組み合わせることで、企業の人材確保と、地域スポーツが抱える指導者不足などの課題を同時に解決していこうという仕組みです。
今回は、このモデルの第1号として、地域新電力会社・たんたんエナジー株式会社と総合型地域スポーツクラブ・一般社団法人福知山ユナイテッドの2社で働く加藤花月さんに、実際の働き方や複業を始めた理由、2つの仕事をすることで生まれている変化について聞きました。
【参考】たんたんエナジーHP
福知山ユナイテッド様と連携協定を締結し、「地域課題解決のための複業」モデルがスタート
「子どもたちの選択肢を広げる仕事がしたい」
――地域課題解決型複業モデルで働き始めたきっかけを教えてください。
私自身、「子どもたちの選択肢を広げる仕事をしたい」という思いを軸に仕事をしてきました。
前職で、福知山ユナイテッドの代表を務める片野さんと出会い、福知山で部活動の地域展開や地域スポーツの環境づくりに取り組んでいることを知りました。
部活動の地域展開は、少子化や教員の働き方などを背景として全国的に進められている取り組みです。その中で福知山ユナイテッドは、スポーツを通じて、子どもたちが「やりたいことを選べる環境」をつくろうとしていました。
「ここで働きたい」と思い、片野さんと話を進めていく中で知ったのが、福知山市やたんたんエナジーと構想していた「地域課題解決型複業モデル」でした。
その仕組みを活用して、福知山ユナイテッドとたんたんエナジーの2社で働くことになりました。
「自分が最初の事例になれば、全国にも広がるかもしれない」
――前例のない働き方を始めることに、不安や迷いはありませんでしたか。
不安はありませんでした。
この構想を聞いたとき、すぐに「やらせてください!」と返事をしました。
前職では、部活動の地域展開に取り組む自治体などを支援する仕事をしていました。
その中で、全国各地で共通して聞いていた課題のひとつが「指導者不足」です。
地域でスポーツ活動を続けていきたくても、指導できる人が見つからない。人材を継続して雇用するためのお金や仕組みがない。そうした課題を何度も目にしてきました。
また、自治体の方々と仕事をする中で、「先行事例があることで、新しい取り組みに挑戦しやすくなる」ということも感じていました。
だからこそ、自分がこのモデルの最初の事例になることで、「こういう働き方ならできるかもしれない」と思ってもらえる地域が一つでも増えれば、全国の子どもたちを取り巻くスポーツ環境が少しずつ良くなるかもしれない。
そんな思いがありました。
2社で時間を調整しながら働く
――現在は、どのような働き方をしていますか。
基本的には、週単位で勤務時間を調整しています。
現在は、たんたんエナジーの勤務を週3日・週15時間を基本として、スポーツ指導がある日は、9時から15時頃までたんたんエナジーで働き、その後、福知山ユナイテッドの活動に移ります。そのほかの時間は福知山ユナイテッドで勤務しています。
働き始めた当初は、週4日たんたんエナジーに勤務し、
◯9時〜15時:たんたんエナジー
◯16時〜18時:福知山ユナイテッドでスポーツ指導
という日も多くありました。
今年度は2社で勤務時間を調整し、福知山ユナイテッドでの業務に、より比重を置いた働き方に変わっています。
また、福知山ユナイテッドで日中の会議や出張が入った場合は、たんたんエナジーの勤務日を変更するなど、双方に調整してもらっています。
こうした柔軟な働き方ができている背景には、福知山ユナイテッドとたんたんエナジーが、このモデルを始める以前から地域のために連携してきた関係であることも大きいと感じています。
【参考】福知山ユナイテッドHP
たんたんエナジー株式会社とオフィシャルパートナー契約締結
福知山ユナイテッドでは、地域スポーツの現場へ
――福知山ユナイテッドでは、どのような仕事をしていますか。
大きく5つの仕事を担当しています。
1|子どもたちへのスポーツ指導・プロジェクト運営
一つ目は、子どもたちへのスポーツ指導です。
現在は、「バルシューレ」という、さまざまなボールや用具を使った遊びを通じて基礎的な運動能力を育てるプログラムを担当しています。
週2回のスクールだけでなく、市内の幼稚園・保育園、小学校、中学校の部活動などでも指導しています。

また、福知山ユナイテッドが取り組んでいる女子プレーヤー応援プロジェクト「Bloomine(ブルーミン)」のプロジェクトリーダーを担当しています。
思春期の身体の変化や生理、食事など、女の子がスポーツを続けていくうえで必要な知識を、選手だけでなく保護者や指導者にも知ってもらう取り組みです。
全国の企業とも連携しながら、学ぶだけではなく、生理用品の活用や食事改善など、実際の行動につながる機会づくりを進めています。

2|企業との連携
Bloomineを中心に、取り組みに共感し、支援してくださる企業との連携も担当しています。
社会にとって必要な活動であっても、継続するためには資金が必要です。
企業と一緒に取り組むことで、活動を一時的なものにせず、より多くの子どもたちへ届けられる仕組みをつくっています。
3|行政と進める部活動の地域展開
福知山市から委託を受けている部活動地域展開の運営業務にも携わっています。
指導者、保護者、競技団体などとの調整や事務局業務に加え、今後どのように地域全体でスポーツ環境をつくっていくのか、市の担当者と一緒に検討しています。
4|イベントの企画・運営
福知山ユナイテッドでは、年間40〜50回ほどのイベントを実施しています。
それらイベント開催に向けた準備、関係者との調整、参加者への情報発信、当日の運営など、幅広く担当しています。
5|広報
ホームページやSNS、チラシなど、福知山ユナイテッドが発信する情報の管理も担当しています。
一人でも多くの子どもたちや保護者に活動を知ってもらい、新しい体験につながるよう、さまざまな方法で情報を届けています。
たんたんエナジーでは、地域のエネルギーを伝える側へ
――たんたんエナジーでは、どのような仕事をしていますか。
主に広報・マーケティングを担当しています。
ホームページやSNS、チラシなどを通じて、たんたんエナジーの取り組みや福知山市の脱炭素先行地域事業について発信しています。
脱炭素先行地域に関する情報発信や制作物については、福知山ユナイテッドが制作に関わるケースもあります。
両方の組織に所属しているからこそ、「こちらではこういう情報が必要」「この部分は一緒に進めた方がいい」といったことを把握しやすく、2社の間をつなぐ役割も担っています。
また、一般家庭のお客様への電力サービスの提案にも携わっています。
たんたんエナジーには「エナジーサポート」という、家庭で支払う電気料金の一部を地域の団体への支援につなげる仕組みがあります。
普段何気なく支払っている電気料金を通じて、「地域のどんな活動を応援したいか」を選べる仕組みです。
2026年3月からは福知山ユナイテッドも応援団体となりました。
私自身もまずは身近な方々にこの仕組みを伝え、地域の電気とスポーツをつなぐ取り組みを広げています。

2つの組織で働くからこそ生まれること
――実際に2つの仕事をしてみて、どのような相乗効果を感じていますか。
一番感じるのは、2社の間の距離が近くなることです。
私自身が両方の組織にいることで、それぞれが今どんなことを考えているのか、何をしようとしているのかが分かります。
その結果、情報共有がスムーズになったり、「一緒にこんなことができるのでは」と新しい企画につながったりすることがあります。
自分が2社の間にいることが、新しい地域の取り組みを生み出すきっかけになったと感じられるときは、とてもやりがいがあります。
複業というと、「2つの仕事を掛け持ちする」というイメージが強いかもしれません。
でも実際に働いてみると、単純に仕事が2つあるのではなく、2つの組織をつなぐ人がいることで、新しい連携が生まれるということも、この働き方の大きな可能性だと感じています。
福知山の事例が、次の地域の一歩になれば
――新しい働き方や地域課題解決型複業モデルに興味を持っている方へ、メッセージをお願いします。
まずは、「福知山市にこういう事例がある」ということを、一人でも多くの方に知っていただきたいです。
「地域でスポーツ指導をしたいけれど、それだけでは仕事として成り立たない」
「地域で必要な人材を雇いたいけれど、一つの組織だけでは難しい」
「新しい地域課題解決の仕組みをつくりたいけれど、前例がない」
全国には、同じような悩みを抱えている人や組織がたくさんあると思います。
福知山市で一つ事例ができることで、「それなら自分たちの地域でもできるかもしれない」と思ってもらえればうれしいです。
実際、福知山市内では私に続き、「地域課題解決型複業モデル」で働く事例も増え始めています。
福知山での我々の挑戦が、全国各地で新しい挑戦を始める方々の一歩につながればと思っています。
「人」を通じて、地域課題をつなげて解決する
地域課題解決型複業モデルは、一人が単に2つの会社で働くための制度ではありません。
地域に必要な仕事と人材を組み合わせ、これまで別々に考えられてきた地域課題を一緒に解決していく仕組みでもあります。
福知山市では、地域新電力、地域スポーツ、行政など、それぞれ異なる立場の組織が連携することで、新たな働き方が生まれました。
次回のインビュー記事では、この仕組みをつくった「たんたんエナジー」と「福知山ユナイテッド」のそれぞれの立場から、
なぜ地域課題解決型複業モデルに取り組んだのか。
企業や地域にどのようなメリットがあるのか。
そして、この仕組みをほかの地域へどのように広げていけるのか。
その背景とこれからについて紹介していきたいと思います。